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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)2084号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人仲節雄の上告趣意について。

所論は、原審が賄賂罪における「職務ニ関シ」の意義について、「当該公務員の本来の職務行為だけでなくその職務行為と密接な関係にある行為ないしその職務行為と関連性のある行為をも包含するものと解すべきで」あるとし、「原審相被告人中村重一が被告人の依頼にもとずき電話売買の斡旋をすることは本来の職務行為でないとしてもなお、その職務行為と関連性のある行為と解するのを相当とすべく右斡旋行為に対する謝礼が賄賂となるべきは論を待たない」と判示したことを判例違反と主張するものである。

ところで、賄賂罪における公務員の「職務ニ関シ」とは、当該公務員の職務執行行為ばかりでなく、これと密接な関係のある行為に関する場合をも含むものと解すべきであることは、論旨引用の判例のほか、当裁判所がしばしば判示したとおりである(昭和二五年(れ)一三七〇号同三二年三月二八日第一小法廷判決、集一一巻三号一一三六頁、昭和二四年(れ)八五六号同二五年二月二八日第三小法廷判決、集四巻二号二六八頁、昭和二八年(あ)四三六一号同三〇年七月二〇日第二小法廷決定、裁判集一〇七号八〇三頁)。されば、原判決が前記のように職務行為と関連性のある行為をも包含するものと解したことは、その解釈やや広きに過ぎ、当裁判所の判例の趣旨にそわないきらいがあって妥当でない。けれども、原審の肯認した第一審判決の認定した事実によれば、第一審相被告人中村重一の電気通信技官としての職務には、既設電話の移転工事等の処理、工事指令、現地調査等の権限をも含んでいたのであるから、第一審判決の判示したように電話移転工事の調査並びに工事の謝礼として判示金員を被告人が右中村に交付した所為が贈賄罪を構成することはいうまでもない。それゆえ、原審の判断の一部に妥当を欠く点があるとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、原判決破棄の理由とはならない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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